今年になっても、科学の分野では、万能細胞研究の話題で持ち切りだ。昨年11月に京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて同細胞をつくったという論文を発表して以降、国の内外からニュースが飛び込んでくる。早くもノーベル賞候補とうわさされ、各国の注目を集めているが、すでに応用分野での競争は始まっている。大切なことは、日本発の大きな成果を、特許などで外国に縛られるような事態にさせないことだ。国の早急な取り組みが求められる。また、この成果を他の分野での発展の起爆剤としたい。
話題の細胞の名称は人工多能性幹細胞(iPS細胞)という。分化の終わった状態の人の皮膚細胞を分化の前の状態に戻したようなもの。これを応用すれば、臓器や筋、骨などあらゆる組織の再生が可能になる。ただ、すぐさま壊れた臓器を取り換えられるわけではなく、応用部分では多くの課題がある。この研究競争が始まったわけだ。
山中教授は論文発表後、渡海紀三朗文科相と会い、「米国などは駅伝(リレー)で走っているのに、同じ距離を日本では一人で走っている状況」と表現した。米国では、山中教授のチームと同様の発表をしたウィスコンシン大学をはじめハーバード大学、カリフォルニア大学、スタンフォード大学などが追い上げているという。そのほか英国や韓国、台湾、シンガポールなども熱心で、まさに戦国時代を迎えている。
これに対し、今回は日本の対応も早かった。中旬には総合科学技術会議の作業部会が開かれ、各省庁の支援策が出そろった。2008年度は、合計30億円を超える額が投入され、技術開発や特許の獲得などを目指す。マスコミとしては、作業部会の討議内容について「知的財産に関連する事項があることから、原則として非公開で行う」としている点に不満は残るが、ともかく、迅速に「オールジャパン」体制を整える動きができたことは評価したい。
日本が1995年に「科学技術創造立国」を標榜(ひょうぼう)し、振興を目指してきた。それなりに体制も整えた。しかし、現実には、特に基礎分野の研究者には、日の当たることが少ないといわれてきた。かなり有望な研究でも、支援体制を整えるには、多くの時間と労力が必要だった。
農業関連でも生物系などの研究者が地道な研究を重ねている。中には世界的な評価を受けるものもある。今年度の日本学術振興会賞を受賞した、稲の遺伝子組み換えをせず、早いスピードで育種する技術の開発や、植物の葉の形態形成メカニズムの解明、害虫と微生物共生メカニズムを解明することによって、食害を防ぐ可能性を示す研究など、注目できるものが多い。
「科学技術創造立国」を目指すには、今回の対応で見せたように、よりスピード感を持つことが重要だ。









