「悪い合意ならしない方がよい」。世界貿易機関(WTO)農業交渉を巡り、この言葉をよく耳にする。
フランスのサルコジ大統領が2月23日の演説に用いて注目された。自由貿易に批判的な非政府組織(NGO)が以前から使い、JA全中と欧州農業団体連合会(COPA)が2007年6月にまとめた共同宣言にも登場した。4月8日に開いた全国代表者集会でのJAグループの要請や、自民党農林議員が海外の要人らと会談した際や国会質問などで使われている。
この言葉が国内であらためて広まったのは、交渉がヤマ場を迎えつつあるからだ。
日本政府が判断を迫られる時が近づいてきた。関税や補助金の削減ルールなどを定めるモダリティー(保護削減の基準)について、合意を目指す閣僚会合を、5月下旬にも開くという機運が高まっている。
2月に示されたモダリティー議長案の改訂版は、日本にとって受け入れ難い「悪い合意案」だ。農産物を重要品目と一般品目に分け、重要品目は関税の削減を緩和する。その一方で、低関税輸入枠の大幅な拡大を提案している。重要品目に指定すれば、米もミニマムアクセス(最低輸入機会=MA)を拡大せざるを得ない。重要品目とは名ばかりで、一般品目とは市場開放の方法が違うだけだ。
世界の食料需給の逼迫(ひっぱく)で「農産物貿易の一層の自由化を目指す」という交渉の目的を問い直さなければならない状況にもなっている。世界的な食料価格の高騰で、食料輸出国を含めて輸出規制を行う国が増えた。食料を原料としたバイオ燃料の製造を、輸出国である米国などが振興し、価格高騰の要因になるなど、輸出国が「輸出責任」を果たしていない。
これは、輸入国が食料を安定的に確保するためには、国内生産を増やすしかないことを物語っている。世界の食料需給の安定のために、日本が提起してきた「多様な農業の共存」を理念とした食料安全保障の確立こそ交渉の目的に据えるべきである。
貿易の自由化が適地適作を促し、途上国にも輸出の機会を与えるとして、食料問題の解決に役立つとの主張は根強い。しかし、多国間で行った前回の貿易交渉(ウルグアイラウンド)の合意に基づいて自由化が進んだ中で、食料危機が起こったことを見ると、この主張は説得力がない。
交渉がさらに長期化すれば世界経済に悪影響を与えるとの指摘が出るかもしれない。それならば、各国が守るべきものを守れる無理のない内容で、交渉を終結させることを考えるべきだ。その上で、農地など食料生産に使える資源を最大限活用し、国内生産を各国が増大させるにはどうするべきか――。そうした観点から世界的に、農産物貿易や農業政策のあり方を検討する場を設けることを求めたい。










