「消滅可能性自治体」首長・専門家に聞く 地方創生、多様な視点で
政府の対応こそが鍵 埼玉大学経済学部(地方財政論専門)・宮崎雅人教授
前回に比べてインパクトは弱いが、「消滅」「ブラックホール」とレッテルを貼り分類する手法は地域にマイナスだ。自治体間の連携や協力が進むとは思えない。若い女性の人口移動は「結果」で、産業衰退などそれをもたらす「原因」を考えなければ、地域の持続可能性を議論できない。
今後は、自治体間でより一層子育て支援政策の競争が進み、子育て世帯の取り合いを危惧する。子育て支援は財源が必要で、自治体によって格差が生じる恐れもある。出生率低下の責任を自治体に負わせる流れも懸念する。地方分権の丁寧な議論抜きで、人口問題や少子化対策を自治体の責任としてはならない。自治体任せではなく、政府が何をするかが鍵だ。
小さな自治循環圏へ 持続可能な地域社会総合研究所・藤山浩所長
まず、前回の「消滅可能性自治体」の検証が必要。実際に社会増などを達成した過疎市町村もある。
人口は、抽象的なデータではなく私たちの人生の数そのもの。より長期的な持続可能性を実現していくことが基本的な戦略となる。循環型社会への転換を求められる中、人口動態上の「消滅可能性」ではなく、将来的に人口を支え得る「循環力」に着目したい。
現行の「一極集中」は決して循環型にはなり得ない。「選択と集中」戦略による周辺地域の切り捨てを止めて、中山間地域から自然や人々との共生に根差す「小さな自治循環圏」をボトムアップで構築することを提案する。新たな自治と共有の制度、拠点とネットワーク設計、人材育成などの整備を求めたい。
新たな“物差し”必要 島根県邑南町・石橋良治町長
島根県の多くの自治体が「消滅可能性」から脱却した背景は、過疎対策に早くから地道に取り組んできた成果だろう。邑南町は女性から支持される地域づくりを進め、高い出生率を維持している。
ただ、若い女性の定着や出生率だけでは地域の力は示せない。地域づくりの視点は多様だ。関係人口や二地域居住も含めて地域力、民力を示す新たな“物差し”が必要だ。
消滅という強い言葉を使った推計が地域づくりにつながれば良いが、「もう駄目なんだ」と首長が意気消沈したり、都市の人が「投資しても意味がない」という考えにつながったりしかねない。豊かな自然や食料安全保障など、過疎地域の存在意義を都市の人ともっと共有していくような方向性が必要だ。
全体の底上げ不可欠 富山県南砺市・田中幹夫市長
隣接自治体と人口の奪い合いではなく、全体的な底上げをしない限り人口減少は解決しない。全国128の自治体と共に組織する「地域共生政策自治体連携機構」の一員として、この10年間、首長たちと連携しながら地域づくりを前に進めてきた。
機構では、地域発の人口戦略推進宣言として3本柱を据えた。非正規雇用職員の処遇改善、保育士の抜本的な働き方改革の他、男女ともに将来の妊娠や出産に備えた知識を身に付け健康管理を支援する「プレコンセプションケア」の普及に向け、覚悟を持って対策に取り組みたい。
ピンチをチャンスとして考え、住民と向き合いながらさまざまな組織と連携し地域づくりを進めたい。